スパムエンターテインメント系作品
熱も何とかおさまって、元気になった。
仕事がたまってしまうので、オフィスに顔を出す。
出社して最初にやることは、いずこも同じメールチェック、というかスパム退治。
会社の個人用のメールはもちろん自宅でも見ているんだけど、webmasterアカウントのメールはオフィスでしか見ない。だってほとんどスパムだらけだし、たまに仕事の依頼や売り込みがあっても、だれか担当者に転送するだけだからね。
そのwebmasterアカウントのメールをさっき見て感動してしまった。
差出人は女性名で一日何通か来ていて、そのメール全てが違う内容。しかもストーリーになっている。
はじめのうちは身の上話。お金が欲しいとか会いたいとか。そのうち、なぜ返事をくれないのか、どうしてサイトにアクセスしてくれないの、といった懇願調になってきた。
まあ、ここまではよくある。
説得力が増すのはこのへんから。返事がダメなら「会いたい」といい、彼女の都合を事細かに連絡してくる。明日の午後は本社に行くからメールを見れないとか、何日なら、新宿に寄る用事があるから時間つくれるとか。スパムさんにしては妙に手が込んでる。
それでも当然無視していたら、お金の隠し場所をこっそり教えてきた。オフィスのちかくにある露地道の生け垣に20万円とメモを入れた袋を隠しておいたから、うけとって欲しい、と。緊急時のケータイメールまで書き添えてある。
幸か不幸か、お金の隠した場所を知ったのは指定の時間を過ぎてからだったから、そのあと取りに来てくれなかった悲しみを切々とつづられて、次のお金の隠し場所を相談する内容へと今日は変化しつつある。
スパムメールは返事を期待していなくて、単に生きているアカウントかどうかを確かめるスクリーニングが目的だとどっかで読んだことがある。開くまでもなくスパム臭を発しているスパムメールがほとんどなのは、そのせいなのだろう。
だとしたら、ここまでテマかけて一連のメールでストーリー仕立てにするほど手の込んだメールを出すのはなぜなんだろう。
引っかかる人はまずいないはずだろうけど、この女性名の一連のスパムシリーズには「作品」として創作性が感じられる。
相手に気を使う遠慮がちな物言い。いかにも個人メールらしいくだけだ書き方。急いでいるときには、意図的に変換ミスをいれるほどのリアリティ。日を追うごとの心の変化を微妙に文字に反映させる計画性。しかし、スパムらしい怪しいテイストはバランスよく入っている。いっぽうメールのヘッダソースはプロスパム然とした簡潔さ。このさじ加減が絶妙。
スパムエンターテインメント系作品の初期の傑作として、保存しておこうと思う。