アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人
「アーティスト」という肩書きで真っ先に「メイクアップアーティスト」を思い浮かべたのはちょっと変ですか?
それはさておきやっぱり自分の肩書きにアーティストを付けるのはちょっと勇気がいるよね派な私は著者の目線に近いと思います。同じ意味で「クリエイター」という言葉の響きも苦手です。
おもしろいことに仕事でお付き合いのある同業者の名刺をみると、いい仕事をする人はきまって肩書きがありません。肩書きが書いてあったとしても役職や部署名だけ。そいういうもんです。
ブログのエントリーっぽい軽い文体。読みやすいけどしかし芸能人アーティストに対する批評の部分は途中で読むのをやめてしまい、著者である大野さんの美大時代からの自伝的な部分を中心に読みました。
筆者なりに自分自身を見つめ、考え直したこと。その媒介となったのは筆者にとっては美術作品を制作することであった。そんな「心の拠り所って誰にでもあるはずですよ」というメッセージを伝えたかったのであれば、ずいぶん斜に構えた物言いをする人だな、とも思います。
「読み終わって、ちょっと厭な気持ちになった人がいるかもしれません。」と自らが認めているように、少なくとも美大を目指していたり、美術を仕事にしている人にとっては、確信犯的な逆説シニシズムは後味があんまり…。
「これは自分の作品」などとおごった考えを持つなよ。と教わってきた、いわゆる商業デザインを生業にする自分には、ここまで著者の葛藤や憤りは感じたことがないですが、だれでも自己の表現は必ず日常的に無自覚的にやっているわけで、自分自身の普段の生活を「自己表現」としてとらえるならば、その表現を振り返って考え抜くクセを忘れないようにしたい。そう気付かせてくれるこの本は、やっぱり少なくとも同業者には読んでおいて欲しいかな。