新書だし、対談書き起こしフォーマットなのでもしかしたらハズすかも? という予感もしていたのですが、いやいやおもしろかったです。
しゃべり言葉を文章に起こすのはかなり高度な編集スキルが必要です。微妙なニュアンスや言葉の選び方を正しく書き直してはじめて読んで伝わる文章になるわけで、一般的には実際にしゃべったことばの20%程度しか編集後の原稿には残りません。
本書では文脈と発言者が言いたいことの趣旨を深くくみ取ってコンパクトにうまくエッセンスをまとめています。きっと編集者がすばらしいのでしょうね。
読者ターゲットとしては、これからWeb関連の仕事をしようとしている人、あるいはWeb制作関連業務をはじめて間もない人を対象にしている感じです。
内容は他のWeb制作系雑誌でよく目にする業界論やメディア論が大半ですが、「読み物」というより発言者同士の空気感やその場のトーンをライブに感じつつ共有できることが、この本の願いだと思います。
特に第5章「プロジェクトとしてのウェブ」では制作会社の実情はどこもおなじなのだなぁと妙に実感してしまいます。
他の業界と比べると、Web業界には社会人としてのモラルが低い人が多いと思います。とりあえず朝ちゃんと会社に来て、クライアントと同じ時間を過ごせと言いたいですよ。(森田雄氏)
ウェブディレクターになりたいってのはいいんですけど、マーケティングがどうとかクリエイティブがどうとか、技術がどうとかの前に、社会人としての最低のマナーが身についていないと絶対無理ですよ。(阿部淳也氏)
耳が痛い人は多いんではないかと思いますw。時間にルーズな人や、決定事項をまとめることなくそのまま会議が終わってしまうようなことが頻繁にあるのは、自分の周りだけではなっかたのだな、と。制作会社共通の人的マネージメントの難しさが伝わってきます。
実際の制作費で使っている額って、テレビや紙媒体とウェブでは桁が違いますよね。大企業では。一日で終わるポスター撮影に一億円使うのに、ウェブサイトをつくるのに一千万円もないことが普通にある。それを考えると「ウェブが中心だ」といわれても違和感を覚える人が多い気もするんですよ。(名村晋治氏)
経営的な視点に立てば予算規模でスタッフの人数や制作期間を想定するのは当然のこと。社会的な認知度と制作サイドの体温に大きな差があることに気がついて焦燥感を覚えてしまうということは、お会いする同業者から時々聞くことがあります。
それに対して手をこまねいていることはもちろんないとは思いますけど、他の事業や関連サービスからの収益で保険的に相殺することを選ばすに、正当な対価を得るために正面からクライアントと向きあう勇気を(すこしだけ)与えてくれた本でした。
すこしだけ、と書いたのは新書ということもあってか本文が約160ページほどで、話題に深く入り込むことなく数時間で軽く読み終わってしまうから。