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2009年01月28日

アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人

アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人

アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人

  • 作者: 大野 左紀子
  • 出版社/メーカー: 明治書院
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 単行本

「アーティスト」という肩書きで真っ先に「メイクアップアーティスト」を思い浮かべたのはちょっと変ですか?
それはさておきやっぱり自分の肩書きにアーティストを付けるのはちょっと勇気がいるよね派な私は著者の目線に近いと思います。同じ意味で「クリエイター」という言葉の響きも苦手です。
おもしろいことに仕事でお付き合いのある同業者の名刺をみると、いい仕事をする人はきまって肩書きがありません。肩書きが書いてあったとしても役職や部署名だけ。そいういうもんです。

ブログのエントリーっぽい軽い文体。読みやすいけどしかし芸能人アーティストに対する批評の部分は途中で読むのをやめてしまい、著者である大野さんの美大時代からの自伝的な部分を中心に読みました。

筆者なりに自分自身を見つめ、考え直したこと。その媒介となったのは筆者にとっては美術作品を制作することであった。そんな「心の拠り所って誰にでもあるはずですよ」というメッセージを伝えたかったのであれば、ずいぶん斜に構えた物言いをする人だな、とも思います。
「読み終わって、ちょっと厭な気持ちになった人がいるかもしれません。」と自らが認めているように、少なくとも美大を目指していたり、美術を仕事にしている人にとっては、確信犯的な逆説シニシズムは後味があんまり…。

「これは自分の作品」などとおごった考えを持つなよ。と教わってきた、いわゆる商業デザインを生業にする自分には、ここまで著者の葛藤や憤りは感じたことがないですが、だれでも自己の表現は必ず日常的に無自覚的にやっているわけで、自分自身の普段の生活を「自己表現」としてとらえるならば、その表現を振り返って考え抜くクセを忘れないようにしたい。そう気付かせてくれるこの本は、やっぱり少なくとも同業者には読んでおいて欲しいかな。

2008年05月21日

名刺本2冊

名刺がすき。
ちいさいスペースに必要な情報を盛り込んでいく、悲しくなるほど狭い紙面の中に広い空間を作り出す、そんな箱庭の思想に近い概念。日本人的にはぴったりな作業なのかも。
名刺デザインの仕事は好きなのだけど校正がほんとうに大変。何度チェックしても赤が入ってきて永遠に責了しないんじゃないかと思えてくる。

僕が持っている「名刺本」は2冊あります。
名刺ワールド -Nice to meet you-

名刺ワールド

名刺ワールド

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ピエ・ブックス
  • 発売日: 2006/09/09
  • メディア: 大型本

判型はちっちゃいけどツカが相当あります。3cmの厚み。カードをデザインしたデザイナーが自ら撮影した写真がメインで、名刺のデザイン集というより名刺が写っているシチュエーション写真集、という体裁です。
テキストは最低限の字数(英語)しかなく、しかもあまりたいしたことは書いてありません。そこが残念。

もう一冊は「成功する名刺デザイン」。これはデザイン本ではなくてどちらかというと読み物系の本です。
いままで約1000人の名刺をデザインしてきた長友啓典氏にとって、名刺作りの奥義は「気合い」と「念」なんだそう。掲載されている名刺のデザインはどれもライブ感というか、人相的な気配が漂っています。ほかに佐藤可士和さん、永井一正さん、岡本一宣さん、それぞれの名刺話がちょっとだけ入ってたり。そんな読みもの。

成功する名刺デザイン

成功する名刺デザイン

  • 作者: 長友 啓典
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/04/01
  • メディア: 単行本

2008年03月18日

編集者という職業

元角川書店、現幻冬舎の見城徹氏の半生をオーサリングした本、「編集者という病い」を読んだ。

いわゆる編集者と呼ばれている人と仕事をすることが日常になっているだけに、それなりに編集者のタイプというか、「あの人はこういうタイプの編集者だな」というカテゴリが自分の中にあったりします。
言ってみれば編集者(ディレクター含む)と、どう上手につきあっていくかが仕事の成果に繋がる大きなファクターです。

だけど幻冬社舎社長の見城徹さんは「編集者」というカテゴリで想定される領域を完全に逸脱超越したところにいます。

編集者という病い

編集者という病い

  • 作者: 見城 徹
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 単行本

文芸書の編集者はみなさんこんな壮絶な仕事の仕方を目指さねばならないのか…。
「内臓と内臓をこすりあわせて作家と関係を切り結ぶ」「裸になってむきあい、七転八倒しなければ…」などと文学的な表現で壮絶な仕事を日々がただひたすら描写されている。とてもまねのできないのめり込みっぷり。読後の疲労感を重くしているのは尾崎豊との一節だけじゃなく常に重いのです。これを読んで元気が出たという編集者とはいっしょに仕事をしたくない。

幻冬舎という社名は五木寛之さんが付けたのだそうだ。そしてこの本は幻冬舎ではなく太田出版から出ているところに叙事を感じます。

2008年03月03日

なぜデザインなのか。

この週末に読んだ本。「なぜデザインなのか。」
フォーマットとしては対談本、ということになっているが、これは紛れもなく読みやすさのための採用された方策(デザイン)なのでしょう。
対談フォーマットとは思えない文章の緻密さ、言葉の精密さ。そして編集された文字組の巧みさ。語り言葉でこんなに精緻な文章を話すことはできるはずない。

つまり内容の濃い本を読みやすく軽やかにするために採られた編集スタイルが対談形式という形になっただけで、聞き手の相づちがこれほどまでに読みやすくなるという新鮮な発見。編集者のとてつもない力量がうかがい知れます。

なぜデザインなのか。

  • 作者: 原 研哉/阿部 雅世
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2007/10/02
  • メディア: ハードカバー
「話題が展開するごとに、たくさんのはてなマークが、頭の中にきのこのように生え、それをひとつずつ検証することで発見したことも多く、今までに体験したことがないほど、消化に時間がかかる。そんなフルコースの対談だった-。」

…と後書きで阿部雅世氏が語っているように、読者が同じ対談の追体験をしたような気分を代弁していて、さらっと素通りできない言葉がぎっしり詰まっています。

デザイン領域の定義をその道の専門家が歴史や、他国文化、教育と対比させて語ることはよくあるけれど、この本の後半で話題になる経済発展の是非とデザイン論を対比させて語るくだりはちょっと興ざめ。
利益優先な考えに疑問を投げかけるために「ベンチャー系の若いオーナー」は「文化に対する責任感が希薄です。」なんて例えていては、話がかえってうすっぺらくなってしまうものです。

それはさておき、蛍光ペン片手にアンダーラインを沢山引きたくなる本であることは確か。もういちど読みたいからアンダーラインはガマンしましたけど。

2008年02月05日

アラン・フレッチャーの黄本

アラン・フレッチャーの黄本を偶然手に入れました。
知人の事務所の床に無造作に積み上げられている目立つ黄色の本が何気なく目に入って、「もしや?」と思って手にとってみたらAlan Fletcherの「Picturing and Poeting」でした。

打ち合わせの最後、別れ際に本のことをたずねてみると、「捨てようと思って…」とのこと。
もう迷うことなく貰って帰りました。やった。

Picturing And Poeting

Picturing And Poeting

  • 作者: Alan Fletcher
  • 出版社/メーカー: Phaidon Inc Ltd
  • 発売日: 2006/11/14
  • メディア: ハードカバー

欧文の手書き文字をグラフィックとしてとらえることも多い日本語圏でデザインの仕事をしていると、書かれた言葉の意味よりも先にレタリングのタッチや紙の質感、添えられたスケッチから文脈を捉えるといった、つまり表面的な印象で欧文を使うことがけっこう多いわけで。

特にWebの仕事では意味不明な英文を雰囲気だけで装飾的に使っているデザインをよく目にします。自分でも多少は身に覚えがありますし。
そんな違和感を自分なりに少しでも埋めていく必要性を前から感じていました。

確か数年前に亡くなってしまったアラン・フレッチャー。彼の仕事ぶりやアイディアを形にするまでの思考過程をトレースすることしかもうできないのが本当に残念。

もうひとつ「The Art of Looking Sideways」の方がわりと有名みたいですけど、手に入れる機会と予算が…w。

2008年01月31日

Web2.0が殺すもの

宮脇 睦さんはWeb上でいくつかのコラムを連載されていて、これがとてもおもしろい。
調べてみたら書籍もいくつか著しておられるので選んだのがこれ。
2006年10月初版ですから鮮度的なタイミングは逸してしまいました。

Web2.0が殺すもの (Yosensha Paperbacks)

  • 作者: 宮脇 睦
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 単行本

洋泉社のペーパーバックから出ているのが、ちょっと珍しいです。そして内容も少し変わっています。
良い意味でも悪い意味でも変わっています。

きっとこの本の想定読者はWeb業界の人でしょう。それは間違いないと思います。
Web界の空気や価値観に浸かりきっている一部の人に対して嫌悪感を抱いている人が存在するのは確かでしょうし、それを揶揄する発言は以前から存在していました。それを上手にまとめた本です。ブログ的な軽い文体で、さらっと読めます。

「集合知」礼賛的な考えに毒されて何かを勘違いしてる人は昔は確かに自分の周りにも見かけましたが、いまはもう絶滅してしまったはずです。
そんなWeb界の内側にいる人々とそれ以外の人々の間にある温度差や違和感を、全編にわたって具体的な事例を交えながら論じていて、そこはとても共感できます。「もっと早く読んでいたら…」と悔やまれます。

それにしても宮脇さんはよっぽど梅田望夫さんがお嫌いなのですね。梅田さんに対するクリティカルな言い回しがそこここに登場します。「ウェブ進化論」を読んだ人なら2倍楽しめるでしょう。最終章で次に来る「Web3.0」を見据えた方向性を示しています。この部分、もっとページを割いて欲しいところです。

一方で書籍のタイトルと装丁に大きな問題がある気がしてなりません。
刺激的なタイトルは内容を端的に表しているとはいえ、どう考えても上手なタイトルとは思えません。B級的な何かを狙っているのでしょうか。表紙のデザインに至っては全く意味不明です。

2007年11月02日

ネット未来地図 ポスト・グーグル時代 20の論点

旬の話題をその場ですぐにざっとつかむにための本です。賞味期限付きですのでご注意ください。

ネット未来地図 ポスト・グーグル時代 20の論点 (文春新書 595)

  • 作者: 佐々木俊尚
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/10/19
  • メディア: 新書

90年代に米国のテレビ放送業界にあった「プライムタイム・アクセスルール」と「フィンシン・ルール」。メディア企業の競争を促進するために三大ネットワークがすべての番組コンテンツを制作することを規制した二つの規制。
当時こんな規制があったことを初めて知りました。

雑誌とインターネットはマジックミドルで戦う。出版社のビジネスモデルを「水商売」と言い切るのはすこし乱暴。水商売の定義はよくわかりませんが、マガボン批判は痛快です。

文藝春秋の書評ページをみると「5年後の姿を大胆予測」なんて書いてある。きっとこの本を読む前に書いたのでしょうね。

2007年10月31日

驚異のWebライティングメソッド

Webライティングに関する本を見つけると、条件反射的に注文してしまう。そんなワケでクリックしてしまった本。著者は戸田 覚氏です。

だから御社のWebは二度と読む気がしない お得意様を獲得する驚異のWebライティングメソッド

  • 作者: 戸田 覚
  • 出版社/メーカー: ソフトバンククリエイティブ
  • 発売日: 2007/06/28
  • メディア: 大型本

タイトルからわかる通り、この本のターゲット読者はWeb制作に関してはあまり詳しくない一般ビジネスパーソンが対象です。そして内容は特にWebライティングだけに限定せずにほかの媒体や企画書など他人に読ませる文章を上手に書きたい人にとっても参考になるでしょう。Web制作を生業にしてる人にとっては耳の痛い話も一部出てきますが、総じて正論です。しかしタイトルが…。書店で購入するのは少し恥ずかしいタイトルです。

ちなみに著者の戸田 覚さんは「いちばんひどい”iPod touchの使い方」なんてタイトルの連載を書かれています。

2007年10月24日

Webプロフェッショナルのための黄金則 XHTML+CSS虎の巻

今日読んだ本。「虎の巻」という言葉を久しぶりに聞きました。

Webプロフェッショナルのための黄金則 XHTML+CSS虎の巻 (Web Designing BOOKS)

Webプロフェッショナルのための黄金則 XHTML+CSS虎の巻 (Web Designing BOOKS)

  • 作者: 大藤 幹
  • 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
  • 発売日: 2007/09/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

でも「虎の巻」言うだけのことはあって、実務に役立つヒントやノウハウが多く掲載されています。
かといって単なる小手先のハック集ではなくて、本来あるべき姿を説明したうえでいくつかの選択肢を示しながらサイト全体を通してどう対応計画を組み立てるか、ということがていねいに説明されています。
この本は、ある程度XHTML+CSSの記述に慣れている人でも一度通読したほうがいいでしょう。全体を通して読んだ方が対症療法的な知識の暗記ではなく、筆者の論理がよく伝わると思います。
そして通読後はリファレンスとしてそばに置いておいて困ったときに一番活躍してくれそうです。

1テーマは2〜3ページで完結になっています。ブラウザのバージョンごとの対応表(なんと17種類!!)もしっかり掲載。技術本なので本文文字量が比較的多いにもかかわらず、藤本さんの本はいつも読みやすいのが特長です。技術解説的な文章を頭に入りやすい平易な表現で書くのは相当な経験と筆力が必要でしょう。
構成上気になるのは、各テーマ見出し下のリード文。冗長で少し無理して書いた感じです。このリード部分は必要ないかもしれません。

2007年10月04日

「変革期のウェブ」を読みました。

新書だし、対談書き起こしフォーマットなのでもしかしたらハズすかも? という予感もしていたのですが、いやいやおもしろかったです。

変革期のウェブ ~5つのキーワードから読み解くウェブとビジネスのこれから~ (マイコミ新書)

変革期のウェブ ~5つのキーワードから読み解くウェブとビジネスのこれから~ (マイコミ新書)

  • 作者: CSS Nite, 鷹野 雅弘, 益子 貴寛, 長谷川 恭久, 安藤 直紀, 原 一浩, 名村 晋治
  • 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
  • 発売日: 2007/07/21
  • メディア: 新書

しゃべり言葉を文章に起こすのはかなり高度な編集スキルが必要です。微妙なニュアンスや言葉の選び方を正しく書き直してはじめて読んで伝わる文章になるわけで、一般的には実際にしゃべったことばの20%程度しか編集後の原稿には残りません。

本書では文脈と発言者が言いたいことの趣旨を深くくみ取ってコンパクトにうまくエッセンスをまとめています。きっと編集者がすばらしいのでしょうね。

読者ターゲットとしては、これからWeb関連の仕事をしようとしている人、あるいはWeb制作関連業務をはじめて間もない人を対象にしている感じです。
内容は他のWeb制作系雑誌でよく目にする業界論やメディア論が大半ですが、「読み物」というより発言者同士の空気感やその場のトーンをライブに感じつつ共有できることが、この本の願いだと思います。

特に第5章「プロジェクトとしてのウェブ」では制作会社の実情はどこもおなじなのだなぁと妙に実感してしまいます。

他の業界と比べると、Web業界には社会人としてのモラルが低い人が多いと思います。とりあえず朝ちゃんと会社に来て、クライアントと同じ時間を過ごせと言いたいですよ。(森田雄氏)
ウェブディレクターになりたいってのはいいんですけど、マーケティングがどうとかクリエイティブがどうとか、技術がどうとかの前に、社会人としての最低のマナーが身についていないと絶対無理ですよ。(阿部淳也氏)

耳が痛い人は多いんではないかと思いますw。時間にルーズな人や、決定事項をまとめることなくそのまま会議が終わってしまうようなことが頻繁にあるのは、自分の周りだけではなっかたのだな、と。制作会社共通の人的マネージメントの難しさが伝わってきます。

実際の制作費で使っている額って、テレビや紙媒体とウェブでは桁が違いますよね。大企業では。一日で終わるポスター撮影に一億円使うのに、ウェブサイトをつくるのに一千万円もないことが普通にある。それを考えると「ウェブが中心だ」といわれても違和感を覚える人が多い気もするんですよ。(名村晋治氏)

経営的な視点に立てば予算規模でスタッフの人数や制作期間を想定するのは当然のこと。社会的な認知度と制作サイドの体温に大きな差があることに気がついて焦燥感を覚えてしまうということは、お会いする同業者から時々聞くことがあります。
それに対して手をこまねいていることはもちろんないとは思いますけど、他の事業や関連サービスからの収益で保険的に相殺することを選ばすに、正当な対価を得るために正面からクライアントと向きあう勇気を(すこしだけ)与えてくれた本でした。

すこしだけ、と書いたのは新書ということもあってか本文が約160ページほどで、話題に深く入り込むことなく数時間で軽く読み終わってしまうから。